Categories: 経済財政

中高年の「大失業時代」

 サントリーの新浪社長が「45歳定年制」について発言し、世論を騒がせています。

https://news.yahoo.co.jp/articles/b35b1c18983ae0f66c7e40ddf144196541319270

 45歳定年制が導入されると、中高年の大失業時代がやってくることになるかもしれません。 

45歳定年制の是非について

 45歳定年制とは、いかにも「先進的な経営者」の考えそうなことですが、45歳定年制の是非について考えてみたいと思います。

 終身雇用制は日本型経営の象徴のように思われていますが、以前からそうではありませんでした。

終身雇用制度はなぜ導入されたのか

 終身雇用制が導入されたのは、人手不足であった高度経済成長の頃からです。

 若手労働力に魅力的な職場にするため、「うちの会社にくれば、一生安泰ですよ。だから、ぜひうちの会社に就職してください。」と新卒者を採用するために考案された制度でした。

 それによって若手を採用しようとしたのです。

 そこに日本の労働法制は解雇要件が非常に厳しく、簡単には解雇できない、ということも重なり、終身雇用制度が当然の雇用慣行のように定着していったのです。

政府は定年年齢の引き上げを要望

 昨今は、年金支給開始年齢を引き上げたい政府は、定年年齢の引き上げを企業に要望しています。

 その政府の経済財政諮問会議の一員である新浪氏の「45歳定年制を導入すべし」という発言は、非常にインパクトがあります。

 経営理論としては、45歳で一度区切りをつけて、優秀な人だけ再雇用で残ってもらい、多くの人には退職してもらったほうが合理的かもしれません。

 終身雇用で、能力的に劣る人でも定年まで解雇できずに雇用し続けるのは企業としては一見非合理的です。だから、合理的な経営をしたいと考える経営者は、45歳定年制は魅力的と考えるのかもしれません。

 でも、それで若手が採用できるのか?

45歳定年制で若者が採用できるのか

 45歳定年制を導入して若手を採用するためには、他の企業に比べて大幅な待遇改善をする必要があるでしょう。まず、相当な高賃金を約束しないと若手を採用するのは困難になります。45歳以降の人生設計を考えると、45歳の定年までに一定の所得が確保できていないと、その後の人生が困難になるからです。

 現在雇用している人を解雇するわけにはいきませんし、現在の社員に対して、急に定年制を45歳に変更するのは雇用契約の不利益変更になりますから、労働者側と話し合いをし、合意しなくてはなりません。これはなかなか困難です。

 そうなると、今後の新規採用者だけに45歳定年制を導入することになります。その人達だけが高賃金で待遇されることになるでしょう。

 それで社内の一体感は保たれるのか?非常に疑問が残ります。

年功序列と能力主義

 そして、この手の話は「年功序列を廃止して能力主義を徹底すべき」という議論と相通ずるところがあります。

 能力主義を徹底すると、能力のある人が抜擢されるので企業経営には非常に有効であるような印象を持つことが多いのですが、果たしてそうでしょうか。

 それに、日本の企業は能力主義は採用せず、年功序列だけで人事が行われてきたのでしょうか。

 決してそんなことはありません。

能力主義の欠点

 能力主義の最大の欠点は、「人の能力を正確に測ることは不可能である」ということです。

 能力を正確に測定し、誰もが納得する人事考課をすることは、神様でもない限り不可能です。

 そんな中で、誰もが納得する人事考課のひとつが、年功序列です。

「あの人は先輩だから先に出世するのは当然だ。」と、言われれば納得する場合は多い。

 しかし、常に先輩が先に出世するとは限りません。

 中には先輩を追い越して出世する人もいます。

 つまり、日本の企業は年功序列と能力主義をうまく組み合わせて人事を行ってきたのです。

能力主義の弊害

 さらに、能力主義を導入する弊害に「先輩が技術やノウハウを後輩に伝えなくなる」ということがあります。

 徹底的に能力主義を導入すると、社員は個人主義に走らざるを得ません。

 下手に後輩に技術やノウハウを教えると、後輩のほうが能力が上手になって追い抜かれてしまうかもしれません。後輩に技術やノウハウを教えて、その結果追い抜かれるのは誰しも嫌ですから、後輩に技術やノウハウを教えるのは最低限にしようとするでしょう。

 それでは会社は伸びません。技術の承継も困難になります。

 米国のように個人主義が徹底し、転職が当然の社会であれば、それでもいいのかもしれませんが、米国は失業率が非常に高く、格差も激しいものになっています。

 果たして、そういう制度をまねるべきなのか。

雇用の安定と格差の縮小は社会安定の基盤

 雇用の安定と格差の縮小は、各国共通の政策目標です。格差はある程度は許容すべきですが、少なくとも所得の底上げを図り、若者も高齢者も生活の不安がないようにしなくてはなりません。

 そして、これは政府だけではなく、企業経営者にも協力してもらわないとできないことです。

 雇用が不安定になると治安の悪化を招きます。治安の悪化は経済活動に支障をきたす原因になります。また、格差が拡大して貧困層が増えれば当然ものは売れなくなり、経済は縮小します。

 いずれにしろ、経営者にとっても良いことはありません。

何といってもデフレ脱却が必要

 ただ、ここまでデフレが続くと企業経営も先の見通しが立たないと感じている経営者も多いでしょう。

 だから、45歳定年制のようなことを経営者が考えてしまうのも、理解できないわけではありません。

 このような経営者の感情を生まないためにも、一日も早いデフレ脱却を政治の責任で達成しなくてはなりません。

あんどう 裕(ひろし)

慶應義塾大学経済学部卒、大手鉄道会社入社。平成9年税理士試験合格。平成10年独立し安藤裕税理士事務所を開設。平成24年12月衆議院議員総選挙により初当選。以後3期連続当選。議員連盟「 #日本の未来を考える勉強会 」前会長。税理士。

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  • さすが安藤裕先生ごもっとも
    安藤裕衆議院並びに日本の未来を考える勉強会の議員の皆様を応援します!
    日本の未来の為、デフレ脱却の為
    頑張って下さい!🙇

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