Categories: 福祉財政

相変わらず不安をあおる経済学者

 いよいよ今日は自民党総裁選挙の投票日です。夕方までには、新総裁が決定し、10月4日月曜日の臨時国会で第100代内閣総理大臣に指名されることになります。

 そんな中、相変わらず経済学者が国民の不安をあおる論文をまた公表しています。

新首相を待ち受ける「基礎年金問題」という難題

 このように、年金不安をあおり、「消費税増税」「年金保険料引き上げ」「年金支給開始年齢引き上げ」「年金支給額減額」などの絶望的な気分を日本人に与えています。

国民年金は優れた保険制度。だが国民がそれを信じられなくなる

 国民負担増・年金支給減という不必要な措置を「必要な改革」と思わせ、自己責任論からますます消費活動を抑制し、年金保険料支払いをせず、結果的に老後の不安を抱える国民を増やすことに繋がっています。

 国民年金は老後の生活を支える大事な制度だし、亡くなるまで支給されるわけですから、これほど優れた保険制度はありません。ところが、「年金はもらえないだろう」と自己判断してしまって保険料を納めない若者がいるのは由々しき問題です。

給付のためのお金は天から降ってくる

 論文を一部抜粋してみましょう。

 『基礎年金の給付水準の低下を抑えるためには、給付財源を何らかの形で確保しなければならない。給付のためのお金は天から降って来ないので、加入者本人にもっと保険料を払ってもらうか、別の加入者が払った保険料を暗黙のうちに使って補助するか、追加で増税するかの3択である。』

 いや、国には通貨発行権があるので、保険料を払ってもらったり、増税したり、どこかから横流しする必要はありません。単に国がお金を作って、そこに補填すればいいだけです。こういうことを書くと「お前は馬鹿か」という書き込みがされるだろうと思いますが、あえて言います。国が通貨発行権を持つ限り「お金は天から降ってくる」のです。

 国の権力の一つであり、強大な力である「通貨発行権」を存分に使うべきです。

生活保護受給者が増える

 『基礎年金の給付水準の低下を抑える方策をすべて否定すると何が起こるか。2030年代以降に高齢の生活保護受給者が今よりも増えるだろう。』

 基礎年金の給付水準を下げると生活できなくなる人が増えるので、生活保護受給者が増える、ということです。それはその通りでしょう。年金保険料の増額によっても、納付できない人が増えるので同じことが起きる可能性があります。

生活保護が増えても、他の政策経費を減らす必要はない

 『生活保護給付の財源はすべて税金である。生活保護受給者が増えれば、その分だけ税負担を多くしなければ収支が合わなくなる。増税しないなら、生活保護給付に予算を回した分、教育や医療や防衛などに充てる予算を削らなければならない。憲法25条で保障されている健康で文化的な最低限度の生活のためには、生活保護給付は他の政策的経費よりも優先度が高い。』

 生活保護給付の財源は、すべて税金ではありません。財源は国債発行による新規通貨発行でもいいのです。著者は勉強ができる人だったでしょう。学校で「税は財源である」と教えられ、そのままそれを疑うこともなく、勉強してきてしまったのでしょう。それで試験ではいい成績を取り続けてきたものと思われます。それでこのような結論になってしまっているのでしょう。

 しかし、残念ながら税は財源ではありません。

 生活保護の予算を拡大したところで、他の政策の財源を削る必要はまったくありません。

そもそも税が後払いであることから考えても、税は財源ではない

 税は財源ではないのです。税が財源であったら、日本国政府が最初に成立したときに、まず最初に国民から税を集めなければ行政運営ができません。しかし、税は後払いです。この点から考えても、「税が財源である」という理屈は破綻しているのです。

 『基礎年金の給付水準の低下は抑える必要がある。それを公的年金制度の枠内だけで議論すると、高齢の生活保護受給者が取りこぼされる。税方式か社会保険方式かの神学論争に陥ることなく、税財源を充てるべき給付と、老後の所得保障をどの制度で行うか。総裁選後の新首相のもとで虚心坦懐に議論すべきである。』

 まさに、この著者こそが、財源問題について「虚心坦懐に」熟考してもらいたいと切に願います。

マクロ経済スライドがデフレを促進

 また、記事の中にはマクロ経済スライドという言葉が出てきます。

 カタカナなのでなんのことか、意味不明ですが、要するに物価変動に応じて年金支給額を増減させる、という仕組みです。

 これだけ聞くと、「当然だ」という感覚を持ちます。しかし、これはインフレ時にはやらなくてはならない制度ですが、デフレ期にやるとデフレをますます助長するので、デフレ促進策となってしまいます。

 つまり、インフレ時には物価上昇に応じて年金支給額を増やさないと購買力が落ちてしまうので、事実上年金の減額と同じことになってしまいます。だから年金支給額は増加させる必要があります。それで高齢者は購買力が維持できます。名目GDPは増加しますが変わらないということになります。

 デフレ時には、物価が下落するので年金支給額を物価下落分減額しても理論上購買力は変わりません。しかし、名目の消費額は減少するので名目GDPは下落します。実質GDPは変わらない、ということになります。

デフレ脱却には「名目GDP」が重要

 実は、デフレ脱却にはこの「名目GDP」が非常に重要なのです。自分の財布に入る実際のお金が増えたのか減ったのか、が景気を実感するポイントです。

 いくら景気がいい、と言われても、自分の財布に入ってくるお金が増えなければ、好景気を実感することはできません。

 一方、いくら「実質は変わらないから」と言われても、実際に自分の財布に入ってくる年金額が減らされたら、自然と自己防衛のためにものを買う量や金額は減らす行動を取ります。ますますデフレは促進されるのです。

 このマクロ経済スライドもデフレを促進させてしまう悪法の一つです。これも虚心坦懐に議論し、「廃止してもらいたいですね。

あんどう 裕(ひろし)

慶應義塾大学経済学部卒、大手鉄道会社入社。平成9年税理士試験合格。平成10年独立し安藤裕税理士事務所を開設。平成24年12月衆議院議員総選挙により初当選。以後3期連続当選。議員連盟「 #日本の未来を考える勉強会 」前会長。税理士。

View Comments

  • 新総裁は岸田さんになりましたね。
    新自由主義からの転換を話されており、期待をします。ここにまともな経済政策を言い始めている立憲、国民民主がプレッシャーを与えて積極財政競争を展開してほしいものです。
    日本に財政問題がないという正しい貨幣観をお持ちの高市早苗さん、または安藤先生にぜひ財務大臣になっていただきたいです。
    とにかく消費税廃止、積極財政によりこの勤勉な日本国民の力で日本国を幸せで世界の模範となる民主国家となるよう、よろしくお願い致します。
    アメリカにいたからアメリカ人と働きっぷりを見てわかったこと、日本国民の競争が足りないからではなく、財政出動がないから経済成長しないのですよ。日本人の方が仕事は丁寧でスピードも負けていませんよ。
    民間、国民の力を信じて政府として然るべき減税と積極財政をして下さい。
    議員の数も増えていいし、先生方の給与だってもっと増えていいのですから。

    • 岸田さんは、財政支出拡大の意味さえご理解いただければ、かなりいい総理になる可能性があると期待しています。
      「積極財政をとことんやることができるかどうか」が新自由主義から転換して令和の所得倍増を実現できるかどうかの分岐点になるでしょう。
      それが実現できるようにお手伝いをしたいと思います。

  • 私は今回の総裁選は、当初から消去法で岸田さんを推させて頂きました。

    私も政策では高市さんが一番近いです。しかし、安藤先生には申し訳ありませんが、正直言って諸々危うさを感じました。

    あとは、岸田さんが総理となり、財政出動や安全保障の問題を今以上に提起する。
    安藤先生をはじめ全国の有志の方々が説得し、ご理解いただくのがベターだと思います。

    • ありがとうございます。高市さんの危うさもわかる気がします。
      岸田さんで安定感をもって政権運営をしていただければいいと思います。
      財政出動をしっかりやり切ってくれれば、いい政権になるでしょう。
      応援していきたいです。

  • ・はじめまして。知人の紹介にてこちらへ伺いました。総裁は岸田氏に決まった様ですね。この記事やブログを拝見して、気になったことがあります。お忙しいと存じますが、お目に留まればお返事頂けると幸いです。
    ・税金は財源ではないとのことですが、それでもなお所得税や法人税等を引き上げるのはどの様な意図なのでしょうか。費用負担を嫌った富裕層や企業が国外へ流出して国内の供給能力が毀損されたりしないのかなと思ったり、所得税はただでさえ累進課税のもと富裕層の負担割合が高い中これ以上負担はおいそれと求められないのではと。
    ・特に富裕層は大多数の国民よりも消費額が高いですよね。彼らの所得を引き下げると消費額が減りより一層お金が回らなくなる(公務員の給料が下がると消費しなくなり不況に繋がるというのと同じ考え)様なことは起こらないのでしょうか。徴税は増やさずに国債で財政支出してボトムアップはできないのでしょうか。

    • コメントありがとうございます。
      所得税の累進課税強化は、所得1億円を超えると負担割合が下がる、という現象を是正するためにも必要です。
      これは金融所得課税が分離課税で税率20%になっているため、富裕層の金融所得が多い層が優遇されているためです。
      これを総合課税化して普通の累進課税を適用するだけでも不公平感は取り除けます。
      また、所得税には所得の再分配という大切な機能もあるので、ある程度の累進強化は必要でしょう。
      いわば、日本は所得税については減税しすぎた、という点もあると思います。
      富裕層の課税を強化しても、消費が減ることはありません。人間は、ある一定程度以上は消費できないものです。
      一日に三食しか食べられません。車も住宅も毎日は買いませんので。
      富裕層が海外に転出してしまう、ということはありうるでしょう。実際にそのような行動を取っている人もいます。
      しかし、それよりも日本が治安がよくて住みやすい国であれば、それほど心配する必要はないと思っています。
      問題なのは、治安が悪くて住みにくい国になりかけているのではないか、というところです。
      あと、法人は税率が上がっても、日本が景気がよくて儲かる市場を持っていれば、海外に出ていくことはありません。

  • お疲れさまです。
    私はPB黒字化凍結を主張した高市議員支持者ですが、岸田議員のことを全くと行っていいほどノーマークだったためよくわからない人っていう印象なので調べています。

    岸田議員は積極財政と見ていいのでしょうか?
    財政赤字覚悟で財政出動ってのは評価に値するのですが・・・

    あと、いくら岸田議員が総裁になって総理大臣になったとしても、財政出動しようとする自民党議員の一部や総理は財務省に抗えるのでしょうか?

    正直なところ普段どおり財務省に屈服する自民党のイメージしかわきません。

    • ありがとうございます。
      安倍総理も財務省には抗えませんでしたが、状況はかなり変わってきました。
      今度こそは、財務省の岩盤を突き崩してもらいたいと思います。
      岸田さんは、これまでは財政規律を重視していましたが、この一年でかなり変わりました。
      その意味で期待しています。

  • マクロ経済スライド導入以前の話ですが、
    物価下落にも関わらず年金額は据え置く特例措置が取られるという、血の通った政治が行われていた時期がありました。

    H12,13,14年度の物価下落時に、3年連続で特例を発動。

    据え置き水準が解消されたのは平成27年度でした。

    確か、物価が追いついたのではなく、立法で段階的に解消を進めたんだと思います。待てばよかったのに。

    今回も最低でもこれぐらいはすべきでしたでしょう!

    平成12〜14年度では国会で
    「どうする?年金下げる?」
    「いやいや見送るべ」
    とギロンしたはずですが、今回はどうだったのでしょう。
    コロナだし殆ど文句出ないと予想され、政治リソースは割かれなかったのではないでしょうか。

    「不況だから下げるのやめよう!財源?#こんなもん国債に決まってるじゃないですか」。
    という当たり前のことを当たり前に言える空気を、僕達も作っていきたいです。

    • そうですね。年金額減額するとか、高齢者の医療費自己負担を増やすとか、血の通わない政治が行われています。
      これも財政が危機的状況である、という誤った認識のもとに、正しい政策と思われているためです。
      国民のための政治が実現されるように引き続き努力していきます。

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