副業解禁に対する国民と政治家のギャップ

 今日、何気なくテレビをつけていたら、自民党総裁選挙の候補者に若者が要望をしている場面が映りました。

 その若者は、「所得を上げるために副業を全面的に解禁してほしい。」と要望し、総裁候補者は「若者の可能性を広げるためにも、副業は解禁するべきだ。」と返していました。

若者の諦め

 私はずっと副業解禁反対を言ってきましたが、若者の意識は変わってきているのだな、とつくづく感じました。しかし、これは悪い意味での感想です。若者は諦めているのだな、というものです。

 若者の要望は、「いま働いているところは賃金が安く、しかも給料が上がる見込みがないので、空き時間に副業をして所得を上げたい」という要望なのでしょう。つまり、突き詰めれば「低賃金を何とかしてほしい」という要望なのです。

 給料が上がらない時代に育ち、賃上げや待遇改善を要求する労働組合もないので、簡単に給料が上がるとは思えない。賃上げ要求をするのは何となく金の亡者のように思えるので、そんなことも言えない。周りをみても、給料が上がっている人なんていない。

 だから、空き時間に副業をして稼ぐしかない。そうしないと、奨学金も返済できない。結婚なんて夢物語。

 そういうことなのだろうと思います。

副業推進政治家の副業に対するイメージ

 しかし、副業を推進する政治家の、副業に対するイメージは違うのです。

 彼らの副業に対するイメージはこうです。

「せっかく能力のある若者がその能力を生かしたくて副業解禁を願っているのに、会社がそれを規制して、若者の能力を十分発揮できる状況を阻んでいる。これは社会にとってマイナスだ。日本社会の悪い労働慣行のひとつだ。だから規制緩和して副業を解禁し、自由に働けるようにすれば、能力を発揮したい若者は自由にその能力を発揮して十分に伸ばせるし、経済も発展するはずだ。」

国民の真の要望と政治家の勘違いのギャップが生み出す「改悪」

 私は、このテレビに出ていた若者の真の要望とは「もっと賃金を上げてほしい。副業しなくても十分な賃金にしてもらいたい。」ということだろうと思います。

 私は、若者の本音の要望と、「改革」好きな政治家の勘違いのギャップが、副業解禁のような規制緩和を進めてしまい、結果として社会の力を弱めていく改革が行われていくように思えてなりません。

コロナ禍によるやむを得ない副業解禁

 コロナで大打撃を受けたANAは副業を拡大しました。

ANA、副業を拡大へ 他社と雇用契約可能に

 ANAの場合には、コロナで給料カットせざるを得なかったために、人材確保のため副業解禁して減収分を稼ぐことは容認するけれども、事業がもとに戻ったときには賃金も元に戻すし、引き続き働いてほしい、というメッセージがあります。

 これも政府が粗利補償をしていれば、ANAもこのようなことをする必要はなかったでしょう。コロナに対する政府の無策の被害者である、と言えます。

 しかし、そうではない会社も副業解禁するところが増えています。

4割近くが副業解禁

副業・兼業を「認めていない」企業が6割近く

 副業解禁は、本当に会社の活力アップにつながるのでしょうか。

 例えば会社の命運をかけたプロジェクトを遂行していて「ちょっと今日は遅くなるがみんなで頑張っていこう!」と気合を入れるべきときに「すみません。今日は私は副業があるので、お先に失礼します。」という人がいたらどうなるのでしょうか。

 また、企業も副業している人に大事なプロジェクトを任せるわけにはいかなくなっていくのではないでしょうか。

 週休三日制などを導入する企業は、その分賃金を減らす、ということになりそうです。休みが増える分自由な行動ができる、というわけです。

みずほ、最大で「週休4日」を認める方針 週休3日はヤフー、アクセンチュアなどでも導入

 副業解禁を「自由で活躍し放題の社会を招く規制緩和」とみるのか「低賃金と企業の活力低下を助長する改悪」と見るのか。

皆さんはどちらだと思いますか?

22件のコメント

かつて松下幸之助氏は社員一人を雇うことは家族の生活まで考慮した給料が必要だというお考えだと聞いた記憶があります。今の企業の姿勢が今さえ、我さえ良ければの風潮を作る一端ではないでしょうか?

松下幸之助は本当にいいことを言っていました。
いまは松下電器産業は既に亡く、パナソニックという全くの経営理念も異なる会社に変質してしまいました。
これが一つの象徴だと思っています。

副業をしなくてもよい給料にすべきだと思います。しかし、政治家は最低賃金を上げることに動きます。そうではなく、企業の事業が拡大し新たに雇用を必要とする景気拡大、デフレ脱却こそが今やるべきことだと思います。

「生活が苦しいから」と言うのは「副業」と言うより「副収入」ですよね。
働く側に二通りの取り方がある様に、雇用する側にも二通りの取り方があるはず。
企業側はなぜ「副業したい\したくない」が理由制度付きで把握出来れば議論も整理される気がしました。
私は現在「副業制度がない状態」で「社外出向」しています。一種のトライアルですが、良い点も悪い点も有りますよ😅

そうですね。いろいろな考え方があります。しかし、守秘義務や会社の一体感の大切さを考えると副業解禁はするべきではないと思います。

おっしゃる通り守秘義務や勤務条件は複雑になります。私の場合は100%出向先の業務指示に従う契約なので、「出向先の人間」となります。
守秘義務は双方の守秘義務を個人で負うので、かなり注意が必要です。
会社の一体感についても、よくスパイ映画に出てくる「私は何者か?」と言う疑問には悩まされます。
結局は「独立した個人」として活動している事になるのかなと最近思い始めています。
これは中途採用、転職市場が活性化した昨今も同様のインパクトを企業にもたらすと思います。
安藤先生のご趣旨は「副業解禁」としてしまうと「移民自由化」で起こる様な諸問題が会社内で吹き上がると言う観点では無いかと思います。
この着眼点は大事だと思います。

私は出向前は「副業解禁賛成」でしたが、自分で体験してみて簡単な話では無いな。。
と言うのが現状です。

他のコメントにある様に「独立でいいじゃん?」と自問自答しています。

勤務や雇用は生活を安定させる意味合いがあるので、流動人材が増えすぎると社会は不安定になりますよね。
しかし、企業も組織も活性化は必要なので、流動性も無ければならない。

結局はバランスですが、これを「個人が負う」構図が強くなるのはどうか?と言うご趣旨だろうと思います。

「副業解禁」でさらに流動化が進むと崩壊しかねないと言うご指摘ならば一理あると思います。

少なくとも「収入補償のための副業」は収入不安定の上に社会不安定を加速し兼ねないと言う点は、他の方々のコメントからも理解できました。

まだ、体験真っ最中なので、発言がブレブレで恐縮ですが、何卒ご容赦くださいませ。

先生のご指摘、皆さんのコメント、大変ためになります。

独立して活動できる個人として働ける人ならいいのですが、現在の副業を求めている人の多くは
低賃金なので働かざるを得ない人たちではないかと思います。
子どもがいる女性が働きに出るのもそうです。
本当は子供と一緒にいたいのに、収入が少ないので働かざるを得ない。
さらに女性の輝く社会といって働かないと輝いていないような印象を受けてしまう。
本当は、働いてもいいし働かなくてもいい、という選択ができなければなりませんが、現在は働くという選択肢しかなくなりつつあるように思います。

守秘義務はどうなるのでしょうか。
ある企業で養われたノウハウをもとに殆どの労働者が副業をすることになりますから、中には勤務するその企業の守秘義務に抵触するような業務をする可能性があります。
特に銀行なんて守秘義務で仕事をしているようなものです。
副業解禁は、低賃金という若者の弱みに付け込んだ、企業の技術や情報の流出という深刻な状況を生むと思います。
特に中小企業にはこのような事にコストをかけられないので、やられ放題になります。
国から事業承継という名の下で、中小企業のM&Aが進められ、それに拍車をかけるように副業解禁です。自社の労働者までも企業の敵になるようなものです。
国、銀行、社員が企業を作り上げていく重要なファクターであることは間違いありません。それが今、何もなくなりました。

なんとか自分の周りだけでも生き残りたいと思ってしまう世の中になりました。悲しいことは、↑のように真っ当なことを主張しているつもりの自分すらも、自分達だけは助かろうと、
・社員を低賃金で働かせ(ざるを得ない)
・社員の副業にびびり
・コロナバブルに乗る…

このような現実です。。設備投資なんてかすりもしません。

その通りですね。副業解禁はどう考えても悪手です。これを推進するマスコミも悪い。能力的に高くて副業を要望する人は、独立開業してチャレンジすればいいのです。単に賃金が安すぎて副業せざるを得ない人には、正当な賃金を支払われるような社会にしなくてはなりません。

私は39歳(男)で精神障害(精神障害3級)を抱えながら、
何とか再就職したいと就職活動をしているものです。

今年1月に勤務していた会社がコロナでリストラが始まり、会社の空気が悪くなり退職しました。

私は民間企業の求人サイトとハローワーク等で就職活動をしています。
ですが、障害者採用の求人は大体最低賃金。
昇給も賞与もありません。
(もちろん薬剤師等専門的な国家資格と経験がある人は別ですが)

最近驚いた事がありました。
健常者で普通に働いている人も給料が低いのです。

とある東京都内の企業に採用活動で面接に伺いました。
その会社は障害者はフルタイムの契約社員でも月給16万円で賞与も昇給もありません。

人事の方から「ごめんね、給料安いんだけど・・・
でもこれあなたみたいに障害者の人を
差別して給料が安いわけじゃなく
うちの会社は健常者の事務職とかの契約社員も
一律でこの月給なんだ」と言われ驚きました。

健常者の方が月給総支給16万円で一体どうやって暮らしていくんでしょう。

勿論、給料を上げる努力をしていないとか、専門性の高いスキルなどを築けないあなたが悪いという自己責任論は良く言われます。

でも、みんながみんな専門性の高い仕事ばかり出来るわけでは無いと思うのです。

そうです。専門性の高い仕事でなくても、真面目に仕事していれば普通に家族が養えるだけの賃金が支払われるべきなのです。最近の日本の低賃金化は異常です。

「低賃金の不安定な状況から賃金を上げ、生活の安定と家族を養える状況にしてもらいたい」という若年層の訴えを政治家・マスコミ・企業・団体は率直に理解すべきです。

逆に、新自由主義な思想を盾に、己の利益に邁進する「虚無主義者」(ニヒリスト)は、そうした若年層の切実な訴えを歪曲し、副業が新たな可能性を導くと”嘘”をつく。

つまり、力づくで自分達が理想とする「世界」を築きたいのでしょう。そんな馬鹿な話がありますか?

コロナ禍でよく分かりましたが、新自由主義者も共産主義者も共に「イデオロギー」で「カルト」的であるということです。

今後も平均賃金(465万国税局)、格差是正、ワニの口は拡大の一途。過去、日本で起きた高度経済成長の利益は、日露戦争での借金を資本家に返済に充て、次の搾取は良質低価格生産品の供給地(中国同じ)として、さらに貯蓄した日本人から搾取(市場開放)などは、この200年に及ぶ資本主義構造。分断は格差社会、脱炭素などは世界的ゲームチェンジ、既存既得業界人は、今だけ金だけ自分だけの状態で分断の加速。今回総裁選の話題にすらならない竹中平蔵、アトキンソンが進める中小企業改革は、多くの失業者、非正規雇用が生まれ格差拡大で大混乱。雇用の受け皿は若者の自衛隊以外主はなく分断が進み、ここで政権交代が起こる。並行して、日本は骨抜きにされ、食べる所もなくなった所で、あとは知らねー。中共産化の波が来ても、フェードアウト。この世の中、政治家は何ができるか日本を守れるか。直近の副業の話に戻すと、年120万以内の副収入(本収入に算入しない)を得られる仕組み(妻の扶養内と類似)を考えられたら如何でしょうか。

副業や残業なしで家族が養えるだけの賃金が得られる社会にしなくてはなりません。そのためには、需要過多の状況を継続して人手不足の状態を作り出し、賃金アップをしないと人材確保できない、という社会環境を作ることが必要です。それができるのが政府です。

経営者は、従業員に副業をさせなければならない経営状態を恥と認識すべし。政治家は、企業が従業員に副業をさせなくともよい経営環境を作るべし。ならぬものはならぬものです。

「一家の大黒柱」から「共働き」が一般になった時点で、労働人口は拡大し、賃金は下がった。
「勤め上げる」ことから「転職」が多くなったとき、労働の質が変わった。
「副業」が一般化することで、さらに仕事の質が変わり、国は貶められようとしている。
日本の良さであるこだわりや細かさ、匠が消えるしかない方向へ向かっていることは明らかです。マニュアル化された仕事なら、そのうちAIまでも必要のない、ロボットに取って代わられる。この流れで日本は世界に操られる部品に成り下がります。

そうですね。その通りだと思います。一つの職場で働き続けて技能を磨き上げることの大切さ、ですね。

企業が賃金を増やすのは、最初に残業代、次にボーナス増額、最後に月給増、問題は景気が悪く仕事が無いから、残業がない。私の弟は工場勤務で、ここ1年半くらい残業時間ほぼゼロ。工場勤務者の給与は残業ありきでようやく生活できる水準。勿論、残業ないからと言って調整給も無く、ボーナスは減り続け、人員削減が囁かれる。また、子供の大学授業料でお金かかるし、副業できないかな〜って、心から叫んでました。副業は仕方ないと思います。でなければ、更なる所得税減税が必要となる。

景気を良くして基本給アップしないと人が確保できない、というくらいの需要過多の状態を継続しなくてはなりません。30年以上、そういう状態がなかったので人手不足にもならず、賃金も上がらなかった。経営者も賃上げする経験がないので、賃上げに踏み切れないのです。以前の日本社会であれば、賃金は毎年上がって当然でした。経済も成長していたからです。その状態を取り戻すのが第一です。副業しなくても残業しなくても、家族が養えるだけの賃金が得られる社会にしなくてはなりません。
減税するのは消費税が先で、社会保険料の減額も必要です。所得税減税よりも社会保険料減額ののほうが効果が高いと思います。

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あんどう 裕(ひろし)前・衆議院議員
慶應義塾大学経済学部卒、大手鉄道会社入社。平成9年税理士試験合格。平成10年独立し安藤裕税理士事務所を開設。平成24年12月衆議院議員総選挙により初当選。以後3期連続当選。議員連盟「 #日本の未来を考える勉強会 」前会長。税理士。